後ろ髪を引かれたら

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西暦を唱える人が消えた歴史的な日。新人類は最後の人間の巣を破壊したとの報せに大いに盛り上がった。世界各地でお祭りが催され、拍手喝采が地球を包んだ。 その数日前、一人の男が寂れた映画館にやって来た。ある大国の軍服を着たその男は誰もいない町の中の映画館に入る。様々な動画が個人の脳裏で直接見られる時代に映画というものは存在せず、この世界の中で唯一残っている映画館となっていた。 男はその映画館の中に入ると受付に置かれたベルを鳴らす。そのベルの音を聞いた女性が受付にやってくると、そのまま冷蔵庫まで小走りして冷えたコーラとポップコーンを運んでくる。 「いらっしゃいませ。貴方は以前いらした軍人さん?」 「やぁ、覚えていてくださったんですね。」 男は無精ひげを撫でながら女性と笑い合う。女性は申し訳なさそうな表情で男の前にポップコーンとコーラを置く。 「すみません。あれ以来、ポップコーンの機械が壊れてまして…。冷蔵庫は直せるんですけど、この機械が直せません…。」 「そう言うと思って、ほら。」 男は右手に持った工具箱を女性に見せる。女性はその工具箱よりもその手に驚いた。男の右手は鉄でできていた。 「まぁ、その手はどうされたんですか?」 「こっちの方が動かしやすくてね。最先端の技術でここまでできるんだよ。ほら、私の姿も532年前と何も変わらないだろう?」 「でも、それは普通のことですよ。外見が変わらないことくらい、当たり前のことじゃないですか。」 「…うん、それもそうか。」 男はポップコーン製造機を見事修理し、女性は男に修理方法を教えられた。 「次に来た時はアツアツのポップコーンが食べられるのかな?」 「はい、それは勿論。軍人さん、その手に持っているのは何ですか?」 女性は男の左手にある、見た事のない瓶を指さす。男はその瓶の蓋を取ると中の液体を飲み始めた。 「最近、ラム酒作りにはまっていてね。実はここのことを思い出したのも、このラム酒を飲んでからなんだ。だから、次に来るのは前回よりも早いと思うよ。」 「軍人さんは、次にどちらに行かれるのですか?」 「また南に戻るよ。やるべきことが終わったら、またここに帰ってくるから。」 「では、その時までポップコーンを作り続けます。」 「ありがとうね。…そういえば、君の名前は?」 「私はサラです。貴方は?」 「僕は、軍人さんだ。」
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