後ろ髪を引かれたら

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西暦が無くなってから400年ほどが経った。廃れた映画館で一人暮らすサラは、十年に一度店に来てくれる男をいつも楽しみにしながら床を掃いていた。掃除が終わるとポップコーンの機械の手入れをして劇場のお気に入りの席に座る。 そしてその日、受付のベルが鳴った。 サラが受付に行くと、そこにはいつもの軍服に身を包んだ男が立っていた。男は右腕にワンピースを掛けており、サラがやって来るとそのワンピースを渡した。 「サラさんの為に作って来たんだけど、似合うかな?」 「まぁ、本当に?ありがとうございます。毎日着ます。大事にします。あっ、ポップコーンとコーラをお出ししますね。」 「ありがとう。」 二人は観客席の特等席に座って雑談をする。男が今まで歩んできた思い出をサラに伝え、サラはそれを聞いてうらやましがる。だがサラが外の世界に行きたいと言うことは無かった。 世界の科学技術は更なる進歩を遂げ、遂に不死の域まで達していた。個体数が減少することは無く、そのため増加する必要も無かった。各々が各々の快楽を求めだし、互いに対する興味や関心を失くしていた。 しかしその文明から隔離されているこの映画館の中だけは昔と変わらない人間の心があった。それは親子のたわいもない話であり、ただの冒険譚であった。 男は自分のことを探検家と名乗り、次は北へ向かうとサラに告げた。 サラはいつまでも男を待ち続けるだろう。男がサラに会いに来る限り、サラは男を待ち続ける。やがてその意味さえ分からなくなっても。
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