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冷酷なる兵士へ
どうか貴方に安らぎあれ
海や大地が貴方を欲しても
時が宇宙が貴方を縛り付けても
私はここで働き続けます
貴方が眠るその日まで
西暦が無くなった歴史的な日。太陽は全世界を平等に焼き付ける。
その世界にただ一つの寂れた映画館。私の仕事はこの映画館の床を掃くこと。傷一つ無いこの床を掃除すること。
数年前には多くの人が訪れたこの町も今では人の気配が無くなってきている。
以前店に来た軍人は「南へ行く」と言い残し、コーラの瓶を片手に旅立っていった。
いつものように箒でほこりを取り、水に濡れたモップで床を拭く。ポップコーンを作る機械の手入れが終わったら私の時間。私にとって思い出ある席、最前列から少し後ろに下がった真ん中二つ右の席に座ってぼんやりと前を見ている。
私の姿が映画の中に溶けていく。タイトル「私」の無声映画は淡々と繰り返される。冒頭シーンは白黒で、時折かすんでよく見えない。明確に映し出されるのは私を愛してくれた父親の姿。ポップコーンを頬張る私。
上映時間「534年」の結末はいつも同じ。寂れた映画館の床を掃く私。孤独で孤高な上映会は今日もポップコーン一つ無く終わった。
寂れた映画館に残された唯一の動体。私は、今日も笑顔を忘れない。またあの人に会うまでは。冒頭シーンの頃に戻るまでは。
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