第8章

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 そうだ、あの朝。  澁澤と秦さんが鉢合わせた日に。  なぜかマンションの外で鳴いてた鳥と同じだ――  僕は本を閉じると、シャツの中に指をすべらせてみる。  そして、ゆっくりと胸の尖りを弄び始めた。    頬に触れる畳の感触。  すごく涼しい匂いがして、「ああ、畳表を張り替えたばかりなんだな……」と。  僕は、そんなことに、今さらながら気がついた。  青々とした匂いは、なんとなく、気だるいような夏の日を思い出させる。  ――多分だけど。  ヤクザには、結構、「男のケツが好きなタイプ」がいるんだろう。  まあ言っちゃえば、永遠の男子校みたいなもんだし? そりゃそうなのかもって思う。  常軌を逸したヤクザの女好きは、一種の「ホモフォビア」の裏返しなんじゃないかって、考えたりすることもあるしね……。  なんでそんなことを、思いついたかって。  ああ、多分、畳の匂いのせいだ。  いつかの夏。  すぐそこの、黒っぽい拭き漆の縁側で、僕は沓脱石に盥を置いて行水をしていた。  まだ、小学校高学年になるかどうか……多分、中学には入っていなかっただろう。    なんで、そんなことをしてたのかは良く覚えていない。  ただ、僕はきっちりと浴衣を着ていて、腰には兵児帯でない角帯を締めていた。  それが、ちょっと腰でゴロゴロして痛いぐらいに感じていたのを、すごく良く覚えているから、何か稽古事の後だったのかもしれない。  僕は縁側の端に腰かけて、裸足の足を盥の水につけては、爪先でパシャパシャと水を跳ねさせていた。  あの時も、とても静かだった。
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