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そうだ、あの朝。
澁澤と秦さんが鉢合わせた日に。
なぜかマンションの外で鳴いてた鳥と同じだ――
僕は本を閉じると、シャツの中に指をすべらせてみる。
そして、ゆっくりと胸の尖りを弄び始めた。
頬に触れる畳の感触。
すごく涼しい匂いがして、「ああ、畳表を張り替えたばかりなんだな……」と。
僕は、そんなことに、今さらながら気がついた。
青々とした匂いは、なんとなく、気だるいような夏の日を思い出させる。
――多分だけど。
ヤクザには、結構、「男のケツが好きなタイプ」がいるんだろう。
まあ言っちゃえば、永遠の男子校みたいなもんだし? そりゃそうなのかもって思う。
常軌を逸したヤクザの女好きは、一種の「ホモフォビア」の裏返しなんじゃないかって、考えたりすることもあるしね……。
なんでそんなことを、思いついたかって。
ああ、多分、畳の匂いのせいだ。
いつかの夏。
すぐそこの、黒っぽい拭き漆の縁側で、僕は沓脱石に盥を置いて行水をしていた。
まだ、小学校高学年になるかどうか……多分、中学には入っていなかっただろう。
なんで、そんなことをしてたのかは良く覚えていない。
ただ、僕はきっちりと浴衣を着ていて、腰には兵児帯でない角帯を締めていた。
それが、ちょっと腰でゴロゴロして痛いぐらいに感じていたのを、すごく良く覚えているから、何か稽古事の後だったのかもしれない。
僕は縁側の端に腰かけて、裸足の足を盥の水につけては、爪先でパシャパシャと水を跳ねさせていた。
あの時も、とても静かだった。
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