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「じゃ、一本だけ」と言いながら、室田がキャメルのフィルターを咥えた瞬間、火のついたライターが突き出される。
「ヤメロって。ったく、ヤクザかホストじゃあるまいし」
苦笑して室田が首を振った。
だが、そのまま軽く顎を突き出すと、タバコの先を、ジリと炎に焼かせる。
室田が一服目を深々と吸い込んで、ゆっくりと煙を吐き出しきったところで、コーヒーがやってきた。
コーヒーをテーブルに置き、ウェイターが去っていくのを、しばらく目で追ってから、澁澤もタバコを咥えて、その先に火を回す。
ふたりはしばし無言で、コーヒーとタバコの煙のコンビネーションを味わっていたが、室田がふと、テーブルの上に置かれたプラスティックケースのメニューに目を留めた。
「おい、見ろよ、シブサワ。『甘納豆』だってさ。なんだよ、コーヒーと合うのか?」
「合うんじゃないですか、普通に、チョコレートの代わりみたいなもんでしょう」
澁澤が、口調を丁寧語に戻す。
「基本、ブラックコーヒーは、なんとでも合いますよ」
「確かに、まあ、凄く濃くて暖かい麦茶みたいなもんだっていやあ、そう言えるかもな」
煙を吐きながらこう洩らすと、室田がコーヒーをひとくち飲み下す。そして、
「コーヒーと喰いモンの組み合わせっていえば、まずは『コーヒーとパスタ』なんだろうけどよ、今どきチェーンのコーヒーショップでもあるしな。だが、それでも『コーヒーとナポリタン』が、鉄壁鉄板だろうな……あの、昔ながらのヤツ」とかなんとか、独り言のように言い出した。
「じゃあ、『コーヒーとカツ丼』は?」
澁澤が問い掛ける。
「アリだ」
「コーヒーときつねうどん」
「全然、アリだな」
「コーヒーとざるソバ」
「んー。まあ……アリだ、うどんの方が『ベター』かもな」
「コーヒーと赤ワインは?」
おい、まだやるのかよ、シブサワ……と言いながらも、室田は、「まあ、アリってとこだ」と律儀に応じた。
澁澤が、すかさず「コーヒーとスプマンテ」と続けると、
「ギリギリだ」と室田。
「コーヒーとビール」
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