第7章

10/14
前へ
/935ページ
次へ
4 「じゃ、一本だけ」と言いながら、室田がキャメルのフィルターを咥えた瞬間、火のついたライターが突き出される。   「ヤメロって。ったく、ヤクザかホストじゃあるまいし」  苦笑して室田が首を振った。  だが、そのまま軽く顎を突き出すと、タバコの先を、ジリと炎に焼かせる。  室田が一服目を深々と吸い込んで、ゆっくりと煙を吐き出しきったところで、コーヒーがやってきた。    コーヒーをテーブルに置き、ウェイターが去っていくのを、しばらく目で追ってから、澁澤もタバコを咥えて、その先に火を回す。  ふたりはしばし無言で、コーヒーとタバコの煙のコンビネーションを味わっていたが、室田がふと、テーブルの上に置かれたプラスティックケースのメニューに目を留めた。   「おい、見ろよ、シブサワ。『甘納豆』だってさ。なんだよ、コーヒーと合うのか?」 「合うんじゃないですか、普通に、チョコレートの代わりみたいなもんでしょう」  澁澤が、口調を丁寧語に戻す。 「基本、ブラックコーヒーは、なんとでも合いますよ」 「確かに、まあ、凄く濃くて暖かい麦茶みたいなもんだっていやあ、そう言えるかもな」  煙を吐きながらこう洩らすと、室田がコーヒーをひとくち飲み下す。そして、   「コーヒーと喰いモンの組み合わせっていえば、まずは『コーヒーとパスタ』なんだろうけどよ、今どきチェーンのコーヒーショップでもあるしな。だが、それでも『コーヒーとナポリタン』が、鉄壁鉄板だろうな……あの、昔ながらのヤツ」とかなんとか、独り言のように言い出した。   「じゃあ、『コーヒーとカツ丼』は?」  澁澤が問い掛ける。   「アリだ」 「コーヒーときつねうどん」 「全然、アリだな」 「コーヒーとざるソバ」 「んー。まあ……アリだ、うどんの方が『ベター』かもな」 「コーヒーと赤ワインは?」  おい、まだやるのかよ、シブサワ……と言いながらも、室田は、「まあ、アリってとこだ」と律儀に応じた。  澁澤が、すかさず「コーヒーとスプマンテ」と続けると、 「ギリギリだ」と室田。 「コーヒーとビール」
/935ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2745人が本棚に入れています
本棚に追加