第1章

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「シブサワさんが刑事だからって、平然としてちゃおかしいの?」 「別に、おかしかないが」 「悪いけど、劉山会のこととか、笠松の総家のこととか、そういう情報が欲しいんだとしても、僕からは、なにも引き出せないよ?」  僕は一応、こう断っておく。まあ、事実として、そうだしね。 「そもそも、シブサワさん、マトリでもソタイでもないんでしょ」  そうだ、と、澁澤は低い声で頷いた。 「だったら、わざわざ、僕と寝てまでヤクザの情報取ろうとする必要性ってあるの? ないよね。それに、もし、そういう目当てがあったとしたってさ、こんな『曲芸技』ってどうなの? いずれ、同僚に足を引っ張られるネタにされるのがオチでしょ。ヤクザの息子と寝たことがバレて失うものって、どう考えても、シブサワさんの方が多そうだしね」  ――警察だって一応、組織なんだし、刑事だって役人の一種だ。  このオッサン、「役人」として、そんなに脇の甘い振舞いをしそうには、まず見えない。  と、ちいさく舌打ちをして、澁澤が笑った。 「喰えないガキだな」  ――なに言ってんだか、さっきまで、さんざん喰ってたくせに。 「で、結局、僕になんの用だったのさ、なんかの脅しのつもり?」  スーツとシャツを床から拾いながら着替える澁澤の背中に、僕はベッドの中から訊いた。 「脅されるような理由が、なんかあんのか?」  背中越しに、澁澤が、ボソリと応じる。 「ぜんぜん」  父親の稼業(シゴト)に興味はないし、かかわりもない……つもりだ。  僕としては。 「別に、特に用ってことはない、セックス以外には」  澁澤の言いぐさは、まるきりヒョウタンナマズだった。 「警官ってホモ多いの?」  立てた両膝を両手で抱えながら、僕は、また澁澤に訊く。 「さあな、知らん」
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