第7章

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  「アメリカのテレビドラマじゃあるまいし、日本の警察官なんて、実際の職務での発砲なんか、全く想定されちゃいないじゃないか」  その上、その銃弾は。  人を一人殺している――    経緯がどうあれ、理由がどうあれ。  死んだ相手が何者であれ。 「もうそれで、何もかも終わりだろ」  呟きめいて、澁澤は、煙と一緒にそう洩らす。  室田もまた、深々と溜息をついた。  そして、 「いいぜ、なんでも訊いといてやるさ」と、両肩を軽くすくめて見せる。 「ただな、澁澤、お前。なんか『いいネタ』でも仕込んでるんだったら……」  わざとらしく言い淀んだ室田の目が、突如、ぐっと深い色を帯びた。  やり過ぎなくらいに野暮ったい、まるで「バブル以前」といった室田の古臭い装いは。  やっかみを買うことと、年齢を理由に見下されることへの、防風堤だ。  ――そうさ、昔から、そういうヤツだ。  室田って男は。  澁澤が胸の内で独りごちる。    いくら国II準キャリとはいえ、この年齢(トシ)での参事官昇任は、どう見たって「早すぎ」だ。  警察(ここ)で、本当に「ソツなくこなそう」と思えば、人より早めの出世ですら、時に命取りになるものだからな。    とっぽいセルフレームのメガネの、その奥に、ごく周到に隠された室田の本心は、ホントのホントのところでは、多分、誰にも計り知れない。    だが、それでも――   「解ってるさ、室田。お前に悪いようにはしないって」    ごく低くそう言うと、澁澤はテーブルの上のキャメルのボックスを指先で引き寄せ、スルリとジャケットの内ポケットへと仕舞った。 (第7章 了)
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