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「アメリカのテレビドラマじゃあるまいし、日本の警察官なんて、実際の職務での発砲なんか、全く想定されちゃいないじゃないか」
その上、その銃弾は。
人を一人殺している――
経緯がどうあれ、理由がどうあれ。
死んだ相手が何者であれ。
「もうそれで、何もかも終わりだろ」
呟きめいて、澁澤は、煙と一緒にそう洩らす。
室田もまた、深々と溜息をついた。
そして、
「いいぜ、なんでも訊いといてやるさ」と、両肩を軽くすくめて見せる。
「ただな、澁澤、お前。なんか『いいネタ』でも仕込んでるんだったら……」
わざとらしく言い淀んだ室田の目が、突如、ぐっと深い色を帯びた。
やり過ぎなくらいに野暮ったい、まるで「バブル以前」といった室田の古臭い装いは。
やっかみを買うことと、年齢を理由に見下されることへの、防風堤だ。
――そうさ、昔から、そういうヤツだ。
室田って男は。
澁澤が胸の内で独りごちる。
いくら国II準キャリとはいえ、この年齢での参事官昇任は、どう見たって「早すぎ」だ。
警察で、本当に「ソツなくこなそう」と思えば、人より早めの出世ですら、時に命取りになるものだからな。
とっぽいセルフレームのメガネの、その奥に、ごく周到に隠された室田の本心は、ホントのホントのところでは、多分、誰にも計り知れない。
だが、それでも――
「解ってるさ、室田。お前に悪いようにはしないって」
ごく低くそう言うと、澁澤はテーブルの上のキャメルのボックスを指先で引き寄せ、スルリとジャケットの内ポケットへと仕舞った。
(第7章 了)
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