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「あの人」とは、別に何を話すってワケでもなかった。
「具合はどうだ」とか訊かれて。
――別に、秦さんからもう、病状とかは聴いてるんだろ?
なんてことを胸の内で思いながら、適当に返事をしたり。
大学はあと何年ぐらい行く気かとか。
金は足りてるのかとか。
別に、苦学生をする気は毛頭なかったけど、僕は大学の奨学金に通るくらいの「頭」はあったから、学費はそれでまかなおうと思っていた。
それも貸与とか育英会とか、そういうんじゃなくて。
学費免除プラス「お小遣い程度のプラスアルファ」っていうぐらいの内容の、大学の著名な研究者やら創設者やらの名前を冠した、全額もらえるヤツを。
でも申請書を出してすぐに、教務課から連絡が来た。
あの人の弁護士が、取消しの依頼を出してきたというのだ。
しかも、寄付金付きでさ。
さすがにそれは、僕としてもちょっと、恥をかいた気分だった。
いつもなら完全に無視する「あの人」の振る舞いだけど、その時ばかりは、高階さんに文句のひとつも言ってやったんだ。
でも、「会長からは、『奨学金っていうのは、本当に金の困ってるモンに回してやれ』とのことでしたので」と。
高階さんは、僕にそう言い返したっけ。
どんな「ノブレッソブリージュ」だよ? ヤクザのくせにって。
思わず鼻で嗤っちゃったけどね。
秦さんとあの人と、三人。
だだっ広い座敷で顔つき逢わせてたのは、ほんの三、四十分ってとこだった。
でも体感的には、ゆうに三、四時間経った気分だったよ。
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