第8章

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   それで、そんなこんなで、やっとあの人との「ご対面」から解放されたと思ったら、部屋の外の廊下に芳さんが座ってて。  当然みたいに、昼ご飯やら何やらを用意してくれてたから、僕としても「もう帰る」とかは、全然言えなくなってしまった。    それで今、僕は昔、自分がいた部屋に座ってる。  秦さんから前もって連絡を貰って、芳さんが準備してくれてたのだろう。  ベッドには綺麗にシーツが整えてあって、掛布団は見るからにふわふわで、いわゆる「お日様の匂い」ってヤツがしてた。  でもどうにも手持無沙汰で、本棚に置きっぱなしにしていた、昔読んだ古い本を手に取りパラパラとめくりながら、僕は畳の上に横になる。  すごく静かだった。  ページをめくる音と自分が唾液を飲み下す音ばかりが、耳について仕方ないくらいに。  まあ、劉山会会長(ここ)(んち)に、そんなガヤガヤと三下が居ることなんかあり得ないし、昔から、それはそうだったけれど。  広い庭付き一軒家の静けさは、さすがにちょっと感じが違うものだなと、あらめてそんなことを思ったりする。  チーチクチーチク。  突然、鳥が鳴き始めた。  ――この鳴き声、聞いたことあるよなと。  そんなことを思いつく。
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