第1章

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「で、シブサワさんはゲイなの? あ、それとも、一種の示威的行為でやってる? 警察でも、上下関係植えつけるためにケツを掘ったりするんだ? ヤクザと一緒で」 皮肉っぽく、僕はそんなことを、澁澤の背中に向かって言う。 「ま、俺の田舎じゃ、警察に入れなかったヤツがヤクザになるからな……」 「え? なに、聞こえない」  「別に、大したことじゃない。ヤクザも警察も、似たようなもんだって言ったのさ」  澁澤は、ひとりで勝手に納得したみたいに、そこで話を終わらせた。 「僕は、女はキライなんだ。いかにも『娼婦の息子』っぽいだろ?」  訊かれたわけじゃないのに、僕は澁澤に言う。 「そうなのか」と、澁澤がまた、とらえどころのない返事をよこした。  そして、「雨、上がったな」と低くつぶやいて、澁澤は出て行った。  こんな風にして、僕と澁澤は始まった――  そして、その夜は、雨が降っていた。
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