第2章

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 どこかに飲みに行くのも気怠い夜。  とは言っても、ベッドに入って眠るには、まだ少し早い時間だった。  ソファーの背にもたれながら、動画サイトの再生リストにまとめたY響の演奏をループして、聴くともなく聴いていた、そんな時だ。  インターフォンのチャイムが鳴ったのは。  イラッと、癇に障った。  そりゃ真夜中とは言わない。  だが、誰かの家を訪問するには、非常識な時間じゃないか?  無視しよう、そう思った。  けれど、鳴ったのは、オートロックのエントランスからの呼び出し音ではなくて、この部屋の玄関のものだということに気がついて、僕は、少し考える。  新聞配達が集金のついでに、別の部屋にも購読の勧誘に回っているとか?  おおかた、そんなところだよな――  ここは、そうチャチな造りのマンションじゃないけれど、玄関のドアというのは、案外、音漏れのウィークポイントだったりする。  廊下から、ドアにべったりと張り付いて物音をうかがわれたら、部屋の中に誰かいるかどうかぐらいは、意外に解るものだ。  僕はソファーの上で、できるだけ気配を殺した。  動画の音声はスピーカーに飛ばしていたから、オケの音は、部屋の空気をまんべんなく震わせて続けていたし、まあ、今さら無意味だよなと思いながらも。  居留守を使ってることなんて、多分、もうバレてるのかもしれない。  けど、僕は今、応答する気なんか、毛頭無いんだ。  誰だか知らないけど、諦めて、さっさと帰ってくれよ、まったく……。  そんな風に、胸中でブツクサと文句を垂れながら、僕は、ソファーの上で、ジッと膝を抱え続ける。  時間が過ぎるのが、ひどく遅い。  すぐそこの廊下に誰かがいると思うと、なんとも落ち着かなかった。  流れる交響曲の小節数を、ちょうど百五十まで数えたところで、僕はついに痺れを切らし、そろりと立ち上がった。そして足音を忍ばせ、カウンターキッチンの横にあるインターフォンの応答機へと歩み寄る。
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