第2章

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「……ったく、一体、なんの用だよ」  つい、イラ立ちを露わにし過ぎていたことに、ふと気づいて、僕は口調と声を抑える。 「『なんの用』って、お前、そんなこと、決まってるだろうが?」  澁澤が、まさに「のらりくらり」といった風に応じた。 「あのさ、オッサン。別に、約束なんかしてなかったよな、次があるとか思ってたワケ?」    ――そりゃ、「ゆきずりで拾う(ワンナイトスタンド)」にしては、「微妙」な相手だったさ。  まさか刑事だなんて、思わなかったし。  向こうは、どうやら僕の身元を知った上での情事だったみたいだけど。  でも、父親(あの人)がらみの下心があるって風にもみえなくて……。  っていうか、正直、あのオッサン、めちゃくちゃヒョウタンナマズで、なんか意図があるのかどうかなんて、結局は、全然掴めなかった。  澁澤に、どんな意図があったのだとしても、そんなことは別に、どうでもよかった。  基本的に、物事なんて、大抵はどうでもいいことだ。  僕はそう思っている。  ――でも、ひとりの時間を突然に乱されるのは、全然、どうでもよくない。 「あのさ、こんな時間に突然、他人(ヒト)の家に押しかけて来るなんて、マナー違反だと思わない? オッサン、いい歳した社会人だろ?」  ……社会人というか、そうだよな「刑事」だっけ。  厚かましいのは、お家芸かよ。 「別に、そう遅い時間でもないだろう? 小学生のガキでもあるまいし」  これ見よがしに腕時計に目をやって、渋澤が言う。 「っていうか、帰れ。僕は別に、アンタに用はない」  ここまで言われても、澁澤は、口もとにとぼけた笑みをたたえたまま、帰る気なんて毛頭なさそうにして、ドアの傍に立ち続けている。  思わず、舌打ちが洩れた。  まあいいか? ほっとけば。  ……その内、いなくなるだろう。  僕はインターフォンのスイッチを切った。  そして、壁のモニターに背を向けると、「少し早いけど、そろそろ寝るか」などと考え、そのままバスルームに向かって歩き出す。  *
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