第2章

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 澁澤の舌先が、くちびるのキワを、かすかにくすぐる。  すると強引に、うねるような熱が口腔に押し入ってきた。  超絶技巧な……。  濃厚で、ねちっこくて、いやらしくて。    ズルリと、腰のぬけるようなくちづけ―― 「おいおい……口ほどにもない。ちょっとキスしたくらいで腰砕けてどうする? 歯応えなさすぎだぜ、『お姫様』」  ――お姫様ぁ?   僕の眉間に、くっきりと縦皺が寄った。 「なんだって? 何、恰好つけてんのさ、オッサン。この前は、僕に挿れられて、身も世もなくよがってたくせに?」  澁澤の頬が、ほんのわずかだが強張った。  「隙あり」だ……。  僕は、澁澤の左足を内側から払う。  澁澤がくずおれるように、膝を折った。 「だーかーら。厚かましいって言ってるだろ、オッサン。解ったら、さっさと帰ってくれよ」  腰に両手をあて、澁澤を見下ろしながら、僕はこう吐き捨ててやる。  けれど澁澤は、僕を見上げて、あの、そらとぼけたような笑顔を浮かべたまま、 「それでも、お前は『お姫様』なんだよ」と、飄々と言い返しやがった。  そして次の瞬間、僕の両膝が、ガクッとバランスを崩した。
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