部屋とYシャツと冬休み――プロローグだけどエピローグ

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 レッドトップの封蝋をポケットナイフで剥がす澁澤の手つきは、いつもながらとても手慣れていた。  クリスマス目前の木曜日の午後だった。  いつもせわしなく事件に追われていて、平日であろうが休日であろうが、常に帰宅の遅い澁澤。  それが、今日は正午ごろ、ふらりと家に帰ってきた。  着替えを取りに戻ったでもなく、仮眠を取りに来たでもない様子で、しばらくの間、居間のソファーに座っていたが、ついさっき、ふと思いついたようにして、澁澤はどこかからかバーボンの壜を出してきた。  冬至間近とはいえ、外はまだまだ明るい。  ……酒には、ちょっと早いんじゃないの?  口にしかけたそんな懸念を、僕は喉元で飲み込んだ。  暖房のきき具合はいま一つで、部屋は底冷えする寒さだったからだ。  澁澤が、戸棚からグラスを取り出す。  そのグラスはしまいっぱなしで、しばらく使っていなかった。表面がうっすらと曇っている。  無精にも、はいているスラックスの腿で、それもごく形ばかりグラスを拭い、澁澤は濃い琥珀色の液体を注ぎ入れる。  まるで麦茶でも飲み干すかのように、澁澤は、ごくりとバーボンを飲み下した。  その喉の突起が軽く動く様子を、僕はぼんやりと見つめている。
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