第2章

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 脛で、ごく軽く膝裏を「どやされた」だけのことだったのに、澁澤の足はうまい按配に急所に入ったみたいで。  僕は、体勢を立て直すこともできずに、そのままガックリとくずおれる。  でも、すぐさま受け身の体勢を整えて、両手をしっかり床について……。  ……いたはずだったのだ。  そのはずだったのに――  僕は、澁澤に圧し掛かるように倒れ込んでいた。  両肩は、澁澤の両手でガッチリと掴まれていて、両足の間には、いつの間にか澁澤の膝が割り入っている。  くちびるが、また奪われた。  背骨から、ふわりと力が抜ける。  密着した腰と腰。  服越しに、澁澤の、熱が、固さが伝わってきた。  ひとりの時間を、突然に邪魔されるのは、何よりもキライだ。  玄関のチャイムはもちろん、通話着信を知らせる液晶の点滅も、LINEのポップアップだって。  とにかく、ひとたび張り巡らせた孤独のバリアーの中に、ズケズケと侵入してくるものは、何もかも、みな大嫌いだった。  静寂の薄膜を、無遠慮に突き破ってこられるようで、ひどく無神経でガマンならないのだ。  それは、ろくに準備も整わないまま男の物を受け入れるよりもずっと、自分自身が「犯される」ように感じる。    だから、僕は部屋に戻ったら、いつだって、スマホの電源を切って引きだしに投げ入れる。    緊急の連絡がつかなくて困る?  確かに。  僕が部屋で、「ひとり」を楽しんでいる時には、たとえ「父親」が死んだって、すぐに連絡はつかないかもしれない。  でも、別に、それでもかまわないと思ってる。  まあ、そんなことにでもなれば、秦さんが、直接ここに飛んでくるはずだけど。    それに、たとえ、僕がインターフォンに応じなくったって、秦さんは平気だろう。  多分、このマンションの合鍵くらい持ってるはずだ。  ……確かめたことはないけど。  でも。  僕は今、そうやって「ずけずけ」と不躾に僕の部屋に上がり込んできた澁澤の腰に、自分の腰を擦り付けている。  ――口腔に押し入ってきたいやらしい舌を、からめとって引き寄せながら。  喉の奥が震えて、甘えた鼻声が洩れ出した。  澁澤の指先が、さらに厚かましく、僕のローブの中に入り込んで、胸の尖りを擦り上げ始める。
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