閑話

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「ともかくさ、秦さん。大学には来ないでね」    秦さんの見た目は、三下のチンピラ連中とはまるで違っていて、ひどくシックだ。  物腰も、どちらかと言えば穏やかで品がある。いわゆる「ヤクザ」には見えないかもしれない。  でも、だからといって、「カタギに見えるのか?」と言われれば、それは、また別の話だ。  仕立ての良いスーツごときでは、秦さんから滲み出てくる、ゾッとするような凄みは隠せない。  秦さんにどんな話があるかは知らないが、別に僕は、特に話なんかしたくない。  そんな風に、再度、僕はキッパリ突っぱねた。  それでも、いつもどおりに言葉数こそ少なかったものの、今日の秦さんは、なぜかひどく食い下がる。  ついには、僕の方が折れた。  「夕食でも御一緒に」と請われて、あるイタリア料理店で待ち合わせることになった。  昔から六本木にある、秦さん行きつけの店だ。
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