閑話

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 毎回お決まりのことだが、ゼミは長引いた。  ……あの准教授が出世しないのは、時間管理が甘すぎだからなんだ。  僕だって、准教授(カノジョ)の長話を終わらせようと、あれこれ遠回しに試みてはみた。  けど結局は、心の中でそんな風に悪態をつきながら、途中で諦めるしかなかった。  でもまあ、それも、別にいつものことだけどさ。  ああ、そうそう。  もちろん彼女が、ろくな研究なんかしてないっていうことは、言うまでもない。  でも、「研究成果」なんてものは、日本(ここ)では、出世には何一つ影響しないっていうのも、また言うまでもないことなんだけどね。  キャンパスを出たところでタクシーを捕まえる。  首都高に乗れば、麻布十番まで、二十分で着くだろう。  まあ、そんなこんなで、秦さんとの待ち合わせ場所に向かう頃には、僕はすっかりと不機嫌の極みだった。もう、すっぽかして帰ろうかなとか、思うくらいに。  でも、そんなことして、部屋まで押しかけてこられたりしたら、そっちの方が憂鬱だしね。  店の前で車を降り、細い階段に入って、地下の入口へと向かう。  赤いギンガムチェックのテーブルクロスと、キャンティの古い丸いボトルがトレードマークの店内は、まあまあの入り。  秦さんは、一番奥に陣取っていた。  いつもの席。  トリッパをつまみに、既にもう、なんだかやたらと重そうなバローロかなんかを飲んでいる。  僕は無言で、秦さんの前に座った。  秦さんが、テーブルの上のワインボトルを視線で示したけど、いきなり「赤」っていう気分でもないから、ウェイターを軽く振り返って、スプマンテを注文する。
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