閑話

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 白トリュフは、特に好きってわけじゃなかった。でも、「まあ、『季節もの』ですしね」という秦さんの言葉に、僕もつい、なんとなく乗せられてしまったのだ。 「坊、他に何かどうです?」  カツレツとサラダを早々に平らげて、秦さんが訊いてきた。  ここの料理は、基本、重たいし、僕としては、このくらいでもう十分かなって感じなのだけど、多分、秦さんは、まだ少々物足りないんじゃないかと思う。  そこそこスリムなくせに、秦さんは、相当健啖家なんだ。 「僕はもういい。食べたいなら、秦さん、何か頼めば?」    度を越えた満腹感は、頭の働きを鈍らせるから嫌いだ。  それに、胃が重いと――セックスするにしたって、快楽に集中できないし?  「坊は細すぎるから、もう少し食べたほうがいいです」などと、まさに「余計なお世話」って感じのひと言のあと、秦さんは、結局チーズを頼んだ。 「それで、秦さん。『話』ってなんなの? 僕、そろそろ帰りたいんだけど」  露骨にむすくれながら、僕はグラスに残った赤ワインに、手持無沙汰に口をつける。 「まあ、そう言わず、甘いモンまで付き合ってください、坊」  と言いながら、秦さんはブルーチーズのかけらを、僕の口もとに突き出した。  仕方なしにそれを齧って、僕は口の中のワインと一緒に飲み下す。
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