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デザートが、ワゴンにズラリと運ばれてきた。
秦さんは、ほぼ全種類を選んで、切り分けさせる。
僕はといえば、この店では、カスタードプディングしか食べないと決めていた。
ここのは、絶品なんだ。
僕が「生クリームは要らないです」と言い足すと、ウエイターは、言わなくても解っているといった風に頷いた。
「それで、坊……今晩は、何か、そんなに早く帰りたい理由でもあるんですか?」
二杯目のコーヒーに食後酒を合わせながら、秦さんが、口もとを苦いように歪めた。
「何……それ? 秦さん、それ、なんの皮肉?」
僕は、エスプレッソのダブルにくちびるを浸して、眉を顰める。
「別に、皮肉のつもりは。ただ、すっかりおひきとめしてしまったし、もしかしたら、この後、デートの約束でもあったのかと」
ふうん、そういうことか……「話」って。
腑に落ちて、僕は思わず、クスリとひとつ、笑いを洩らした。
「何かと思えば、秦さん、あの『オッサン』のことを訊きたかったんだ? めずらしいね、僕の男のことなんかが気になるの?」
「坊……」
「まさか、『あの人』に、なんか言われたってわけじゃないよね?」
あの人は、僕に関心なんかないはずだ……。
「オヤジさんには、まだ何も報告してません」
「そう? ともかく、僕が誰と寝ようが、秦さんになんか関係ある?」
秦さんが、やれやれと溜息をつく。
「……もちろん、坊が、誰と寝ようが構いはしませんが。ただ」
「何? ああ、ひょっとして、あのオッサンが『刑事』だとか、そんなことが気になってるの?」
坊……と言い、一息つくと、秦さんが続けた。
「では、それを承知で『付き合い』を?」
「なんかマズいわけ? 僕の相手が刑事だと」
「そりゃ、良くはないでしょう……立場上」
秦さんが、短く苦笑する。
「お遊びの相手なら、後腐れないのが、いくらでもいるでしょうが。他をあたっちゃどうです」
秦さん物言いに、僕は、ちょっとカチンときた。
「そんなのは、僕のプライベートな愉しみだ。いちいち、父親の『稼業』を気にしろっていうの? そんな義理、あの人に対して、全然ないけどね」
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