閑話

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 ――「おんな」のほう? って。 「何言ってんの、秦さん」  僕は盛大に噴き出して、挙句にむせこんでしまう。 「あのさ……『相変わらず』も何も、女性と寝ることなんか、僕には不可能なんだって」 「しかし、(ボン)。そう言ったって、男も女も、穴だけ使うなら、似たようなものですよ」   「意外と下品なこと言うね、秦さんも」  僕はギュッと眉根を寄せて、軽蔑をあらわにする。  別に、こんな年齢のオジサンに「LGBTがどうのこうの」なんてこと、今さら理解を深めてもらおうとか、そんなの微塵も期待してないけどさ。 「もう、何遍も言ったと思うけど、僕はバイじゃないし、男漁りだって、『遊び尽くした』だの『懲役喰らったヤクザの嗜み』みたいなことで、イキがってやってるとかってわけじゃないんだって」  そして深々と溜息をついて、僕は、 「とにかく、『裸の女』の傍になんかね、チャカで脅されたって居たくないだけだよ。生理的に無理なんだ」と言い足した。 「なら別に、女の服は脱がさなきゃいいでしょうが、用のある場所だけ使えば。坊だって、いずれは嫁を貰って……」 「まったく、話になんないよ」  僕は鼻で嗤って、秦さんの話を遮った。  秦さんが、軽く指先を上げて、ウェイターにコーヒーとグラッパの追加を注文する。  そして、正面に向き直り、僕の目をひたと見据えた。 「……惚れてなさるんじゃないでしょうね、あのデカに。本気で」 「そんなんじゃないって、ったく、馬鹿馬鹿しい」  さも嘆かわし気に、僕は首を振る。  ウェイターが、コーヒーとグラッパのグラスと、そしてエスプレッソを持って近づいてくる。 「惚れてなんかないさ、そう、惚れてはないけどね……」    ウェイターが、ちょうどテーブルの脇に来る瞬間をわざと見計らって、僕は言った。 「セックスはいい、凄くいいんだ」  お行儀よく躾けられ、常にすまし顔のウェイターが、一瞬、誰が見ても解る様子でギョッとした。  それがちょっと面白かったから、僕の機嫌は、少しだけ直る。  秦さんは、そのまま黙りこむと、グラッパに口をつけた。  僕の方は別に、お替りが欲しかったわけじゃなかった。  でも、つい惰性で、目の前に置かれたエスプレッソカップに指を伸ばしてしまう。
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