2743人が本棚に入れています
本棚に追加
――「おんな」のほう? って。
「何言ってんの、秦さん」
僕は盛大に噴き出して、挙句にむせこんでしまう。
「あのさ……『相変わらず』も何も、女性と寝ることなんか、僕には不可能なんだって」
「しかし、坊。そう言ったって、男も女も、穴だけ使うなら、似たようなものですよ」
「意外と下品なこと言うね、秦さんも」
僕はギュッと眉根を寄せて、軽蔑をあらわにする。
別に、こんな年齢のオジサンに「LGBTがどうのこうの」なんてこと、今さら理解を深めてもらおうとか、そんなの微塵も期待してないけどさ。
「もう、何遍も言ったと思うけど、僕はバイじゃないし、男漁りだって、『遊び尽くした』だの『懲役喰らったヤクザの嗜み』みたいなことで、イキがってやってるとかってわけじゃないんだって」
そして深々と溜息をついて、僕は、
「とにかく、『裸の女』の傍になんかね、チャカで脅されたって居たくないだけだよ。生理的に無理なんだ」と言い足した。
「なら別に、女の服は脱がさなきゃいいでしょうが、用のある場所だけ使えば。坊だって、いずれは嫁を貰って……」
「まったく、話になんないよ」
僕は鼻で嗤って、秦さんの話を遮った。
秦さんが、軽く指先を上げて、ウェイターにコーヒーとグラッパの追加を注文する。
そして、正面に向き直り、僕の目をひたと見据えた。
「……惚れてなさるんじゃないでしょうね、あのデカに。本気で」
「そんなんじゃないって、ったく、馬鹿馬鹿しい」
さも嘆かわし気に、僕は首を振る。
ウェイターが、コーヒーとグラッパのグラスと、そしてエスプレッソを持って近づいてくる。
「惚れてなんかないさ、そう、惚れてはないけどね……」
ウェイターが、ちょうどテーブルの脇に来る瞬間をわざと見計らって、僕は言った。
「セックスはいい、凄くいいんだ」
お行儀よく躾けられ、常にすまし顔のウェイターが、一瞬、誰が見ても解る様子でギョッとした。
それがちょっと面白かったから、僕の機嫌は、少しだけ直る。
秦さんは、そのまま黙りこむと、グラッパに口をつけた。
僕の方は別に、お替りが欲しかったわけじゃなかった。
でも、つい惰性で、目の前に置かれたエスプレッソカップに指を伸ばしてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!