閑話

11/11
前へ
/935ページ
次へ
   「……冗談だってば、秦さん」  いい子ちゃんで真面目な顔を作って、僕は秦さんを見つめ返した。 「大丈夫、そんなに心配しなくても、そのうち飽きるから」   「飽きる?」  秦さんが、噛みしめるように呟く。 「それは……坊の方があのデカに、ですか?」  ――さあね?  僕は曖昧に首を傾げる。  どっちがどっちに飽きるのか。  それは解らない。  解らないけど……。  でも、いずれにせよ、どちらかが飽きるに違いないんだ。  物事は、常に変化するものだ。  人も、人の気持ちも。  同じ状態が、そんなに長く続くなんてありえないってことを、僕は知っている――  そして僕は、静かに席を立つ。  背後で、秦さんが、慌てて椅子から腰を浮かせる気配がした。 「いいよ、タクシー拾うから」  一ミリも振り返らないまま、背中越しにそう言い捨てて、僕は店を後にした。
/935ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2743人が本棚に入れています
本棚に追加