第3章

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2  そして、秦さんが、僕に触れる。  肘の内側にくちづけながら、僕の「男」を嬲る、そのやり方は、気づけば、澁澤がいつも僕に施す愛撫と同じで。  極彩色の中で、ひどく頼りない色を残した秦さんの胸の尖りにしゃぶりつこうと、僕はもがく。  すると、それはまた、肌色の澁澤の裸体へとすり替わり、僕のくちびるが触れた瞬間に、洩れる低い吐息は、少ししゃがれたような澁澤のものになった。  指が、僕以外の男の、熱い猛りを求めてさまよい出す。  秦さんの指が、僕のものへの愛撫を続けていて、僕の腕は澁澤を抱いている。  でも、秦さんの愛撫は、あまりにも澁澤のものと似すぎているから、僕には両者の区別が、まるでつかなくなって。  やがて、ふたりは、一斉に僕を嬲り始めた。  そうやって、僕の想像の中では……。  胸とくちびるに、同時に口づけられ、僕の下腹部のすべてを、幾つもの指が慈しむのに。  でも、今、現実に僕を慰めることができるのは、僕自身の両手だけだった。  すべての場所への刺激が足りず、僕はただ、身体中のあちこちを、落ち着きなくまさぐって、何もかもが中途半端な快感に、物足りなくも焦れて焦れて、苛立って、もう、狂いそうにのたうち回っていた。 「厭だ、もっと、もっと舐めて、もっと、強く……吸って、澁澤……」  餌を目の前に「待て」を強いられる犬の息遣いで、僕はひとり、声を上げる。 「はたさ……ん、擦って、ダメだよ、止めないで、お願い、お願い…だから、して」  達したい、イキたいのに。  頭の中で僕にもたらされる愛撫と実際に得られる刺激とが、あまりにもかけ離れ過ぎていた。  むず痒いだけの快感に、ただ宙ぶらりんに吊るされたままで、どこにも行き場がない。  切なさのあまり、僕は、ついにすすり泣く。
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