第3章

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 すると、微かなバッハの旋律の隙間をぬって、低いバイブレーション音が、部屋の底の空気を震わせた。  いつもなら、帰るなり、着信音をすべてオフにして引き出しに放り込んでおくスマートフォン。  それが、リビングルームのソファーの背に脱ぎ捨てた上着のポケットの中で震えていた。  誰からなのか――    秦さん?    ……澁澤には、番号なんか教えてない。  でも、刑事(アイツ)には、それを知る方法くらい、多分、いくらだってある。  どっちでもいい、誰でもいい。     誰でもいいんだ。  もう、ガマンできない。こんなの。  誰か、触って。  僕をいかせて。  誰か……抱いて。  今、すぐ。  そして僕は、ベッドから転がり落ちるようにして這い出ると、リビングルームへ向かう。
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