第3章

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 腰がひとりでに動き出した。  ソファーの座面に、猛る部分を激しく擦りつけるのを止められない。  両腕を交差して自分の身体をきつく抱き締めながら、僕の指先は、もう痛いほどに乳首を摘まんで、押し潰していた。 「……や、だ、いや…だ、も……う、でる、でる」  頭の中が、白く焼切れる。  一気に込み上げてきたものが、溢れるように迸った。  下腹部の律動にあわせて荒く吐き出される息に、悲鳴じみた声が絡まって。    ――しぶさわ、しぶさわ、と。  僕の意思とは無関係に、くちびるからあふれ出てくる声と息と悲鳴の中で、ただそれだけが、なんらかの意味を有する音だった。  放出される白液は、なぜだかひどく粘っていて、摩擦を伴うように込み上げる熱で、さらなる放出感が呼び覚まされる。  そんな風にして、いつまでもいつまでも吐き出し続けたいような律動が続き、そして、それも、やがては止まった。  肩で息をするような荒い呼吸の合間に、やたらと甘ったれた声が洩れ出してきて、自分自身、それがどうしようもなく気に障った。  屹立をきつく握り締めている指を、ゆっくりと解き、白濁に汚れたその手をスマートフォンへと伸ばす。 「……しぶ、さわ?」  床にうずくまってソファーの座面に頭を載せながら、震え掠れる声で、僕は問い掛ける。  通話は切れてはいなかった。  だが、澁澤は何も応じない。  スピーカーからは、物音ひとつ、聴こえてこなかった。 「……ねえ、しぶさわ」  ほとんど吐息に近い声で、僕はやっと、もう一度だけ呼び掛ける。  すると、かすかに遠く、男の声で溜息が洩らされた。  その響きに、僕の頬から、ざあっと血の気が引いた。  息も声も、喉につかえて、くちびるからは、何も出てこない。  そしてごく唐突に、液晶画面に「通話終了」のメッセージが表示される。  電話は、一方的に切られていた。
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