第3章

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4  ――澁澤からだと。  なぜだかそう思い込んでいた。でも。  電話の相手が、誰だったのか、結局は解らないままだった。  まさか……と思う気持ち。そして、それを即座に打ち消す声が、僕の頭の中で繰り返す。  だが、今、いくら繰り返し考えたところで無駄事に過ぎない。  刑事ドラマよろしく、電話会社から通話履歴を手に入れられるわけでもなく、何を考えたって、どれも確証のない、単なる想定に過ぎないのだから。  気怠い身体を起こして、汚れを片付け、僕はベッドへと向かった。  家中の明かりを消して、目を閉じる。  電話の相手が気になるような、うっすらと怖いような、それでいて、むず痒くこみ上げてくるさらなる自慰の欲求に、手は、またしても、ひとりでに下腹部を触って蠢き出した。  「それ」を続けるには、もう、けだるすぎて。  でもそれでも、刺激を与え続ければ絶頂感が背筋をせり上がってくる。  声を上げる気力もないままに、僕はただ、くちびるを噛み締めて達し、律動の中、眠りに落ちた。   *  不躾なチャイム音――  玄関のインターフォンなんて、誰が鳴らしても同じ音がするに決まってるのに、あの男のものは、なぜなのか、ズケズケと厚かましく感じる。非論理的だけど。  モニターのスイッチを入れると、果たして、そこには、ややくたびれたスーツの澁澤の姿が映っていた。   「おい、早く開けろよ……」  澁澤が、妙にカメラ目線で言う。  深々と、聞こえよがしに溜息をついて、僕はボタンを押し、マンションのエントランスのロックを解除した。
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