第3章

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6  僕に挿れたまま、ベッドへと場所を移して、澁澤は僕を犯し続けた。  そして僕も、澁澤を犯す。  澁澤のセックスは、いつも「ねちっこくていやらしい」。  寸止めをさせたり、愛撫を緩めてみては、突如、激しく突き上げるといった風に。  まるで獲物をいたぶる野良猫じみた真似をすることも多かった。  なのに今日は、どれほど吐き出しても吐き出したりないと言う様子で、歯止めなく、だらしなく、幾度も達して、白濁を滴らせる。  それは僕も同じだった。  何度達しても、すぐにこみ上げた。  気違いじみているほどに身体を交わらせて尽くして。  そして、ついに、僕たちは力尽きて、打ち付け合う腰の動きを止めた。  耳にうるさいような荒れ狂う息遣いと、心臓の音が静まって。  やがて空気が、シンと、夜に沈殿した。  かすかに甲高い金属音。  まるで、音叉の残響ような――    そして続くのは、いっそ小気味いいほどの発火石の摩擦音と、ジッポーオイルの焦げ臭い炎の匂い。 「……お前、すごいエロかったな、今晩は」  キャメルの煙を吐き出しながら、澁澤が呟く。 「はじめて寝た時、思い出した」  返事はせず、僕はゆっくりと瞬く。 「あの時よりも……良かったかもな」と、ひとり言のように言って、澁澤は溜息をついた。  その後は、チリチリとタバコの巻紙が燃える音だけが続く。 「そんなに、気になってんのか?」  澁澤の声は、沈黙とひどく相性が良くて、危うく僕は、その問い掛けを聞き逃しそうになった。  そして、「なに、なんのこと……」と、やっとそれだけを、気怠く答える。
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