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腰が重い。
寝返りを打つと、シーツに触れた下腹部に、かすかに熱いような痛みが走った。
おとといから昨夜と続いた「摩擦」に、その部分の皮膚はもう、敏感を通り越したような状態になってしまっている。
「サル並み」だな、まったく……と。
つい、僕はやるせなく吐息を洩らす。
「なんだ? いい歳の若い男が、朝一番にするのが、溜息をつくことか?」
低くしゃがれた声がした。
朝、僕が目覚める時間までベッドにいるなんて、澁澤にしてはめずらしい。
指先が伸びてきて、僕の髪をクシャリと撫でる。
焦げ臭いような、タバコの残り香がした。
――「CAMEL」だ。
僕は黙ったまま、ベッドから起き上がる。
十時から、大学の低温室の予約が取れていた。
混み合う人気の施設だ。チャンスを無駄にする気はない。
というより、そもそも、設備の数が少な過ぎるのだ。
あれで国でランキング一、二位を争う大学だなんて、よく言う。
ホント貧相な国だよ、ここは。
基礎研究をないがしろにすると、後々取り返しがつかないことになるって、サルでもわからないか?
ま、そうなってみないと解らないんだろうけど。頭の悪い連中は。
そしてまた、僕の唇から溜息が洩れる。
どうしたんだか、どこまでも辛気臭いじゃないか? 僕も。
そう思ってまた溜息をつき、僕はシャワーのコックを全開にした。
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