第4章

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*  シャワーを浴びて、シェービングをして、スキンクリームを薄く頬に伸ばした。  ローブをはおって、バスルームから出てくると、澁澤はすでに、シャツにスーツを身にまとっていた。  昨夜から着ているワイシャツは、さすがに襟元がくたびれはてていて、澁澤の顎先には無精髭が目立ち始めている。 「小汚いな、ヨレヨレにも程があるだろ? オッサン」  僕はバスローブの腕を、胸の前で組み合わせた。 「髭ぐらいあたって行けよ」  でも澁澤は、僕の言葉をまるきり無視で、窓ガラスを鏡代わりになどしてタイを結んでいる。  僕はまた、吐息を洩らした。今度のは、呆れ果てた溜息だ。  すると、澁澤が低く笑う。 「庁舎に着替えが置いてあるんだよ。向こうで支度するさ。今朝は会議があるからな……でなきゃ」  突然、澁澤の指が まだ少し湿った僕の髪の中へと割り入ってきた。  そして、後頭部を掌で抱え、僕の顔を、ぐいと引き寄せる。  殴りつけられるような衝撃とともに、キスが始まった。  澁澤の首筋からは、いつもよりも少しキツイような男の匂いがしていて。  それは、常ならば僕があまり好まない類のものだったのに、でも、そんなことが、もうどうでも良くなってくるくらい、澁澤のくちづけは、いやらしく僕を煽って熱くさせる。  でも、そんなキスは、始まった時と全く同じように、ごく唐突に終わった。  そして澁澤が、 「……そうでなきゃ、引き続いて、もう一、二回は、楽しませてもらいたいところなんだがな、今日は」と言って、ニヤリと笑う。 「まだ勃つっていうのかよ? 見栄を張るにもほどがあるだろ? オッサン」  甘く乱れた吐息を急ぎ飲み込むと、僕は澁澤を、思い切り小馬鹿にしてやる。
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