第4章

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「で?」と。  澁澤が、また口を開く。 「コイツが昨夜から、やたらと気にしてた『おとといの電話』とやらは、アンタが掛けたのか? 指定暴力団劉山会『参与』の秦久彦さんよ」    澁澤の言葉に、秦さんが、ゆらりと口もとを揺らめかせた。  ――ああ、悪いけど、「ロマンスグレー」だなんて、前言撤回だ。  「グレー」だなんて、そんな「枯れた」ものじゃないや。  秦さんの瞳の奥は、今、ギラついて、底光りしていて、秦さんのこんな生々しいような表情なんか、十年、十五年前にだって、僕はめったに見たことがなかった。  普通の人間なら、後ずさって逃げ出すか、恐怖で身体が固まって立ちすくんで震え上がるかのどちらかに違いないだろう、そんな秦さんのオーラを目の当たりにしているというのに、澁澤のヤツは相変わらず、のらりくらりと言葉を続けた。 「それにしても、『参与』だなんて、随分とテキトーな肩書だな? 秦さんよ。なるほど? 八角(やすみ)会長の『コンサルタント』ってワケだ。まあ、アレだよな、直参の兵隊も持たないで、そんな『名誉職』に身をやつしてないと、幹部連中がビビっちまって、枕を高くして寝られやしないってことなんだろ?」
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