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特に行きたいところが思い浮かばずに、首を傾けて困っていると 「じゃあ、俺が行きたいところに行ってもいいですか?」 そう言って、そっと私の手を取る。 「え…」と思いながら、繋がれた手に視線を落とすと、状況を飲み込むまでに、手を引かれて歩き出す。 振り払うことも出来ずに、ただ彼の手を見つめていた。 電車に揺られて、下車した駅から無言で歩く事、十五分。辿り着いた場所は 「……え、……海?」 一面に広がる海が、キラキラと光に反射して、波が行ったり来たりを繰り返す。 「下、降りますよ?」 近くにあった階段を下りて、砂浜へと足を踏み入れた。季節は秋へと移り変わる頃だが、まだまだ残暑も厳しく、海水浴を楽しむ人の姿も見られる。 一気に潮の香りが鼻を掠めて、そういえば、今年は海に行くことなんてなかったな……。なんて思いに更けていると 「足だけでも海に入りません?」
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