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チラっと時計に目をやって、床に落ちていた帽子を手に取る。
「もっと一緒にいたいけど、そろそろ行くわ」
私も一緒に玄関へと向かう。
幸せな時間を過ごした分だけ、離れる時の寂しさは、とてつもなく大きい。
「じゃあな、また電話する」
「うん、気を付けてね」
ハルがドアノブに手をかける。
私は反射的にハルの腕を引っ張り、自ら唇を重ねた。
「……行ってらっしゃい」
「行ってきます」
パタンと閉まったドアを見つめて、最後に見たハルの笑顔を思い出していた。
ーーー***
いつものマンションまでは、しいのアパートから歩いて十分程度。
さっきの余韻に浸っていたいが、そういうわけにはいかないみたいだ。
すでにマンション裏には、いつもの見慣れた車が止まっている。
無言で乗り込むと、マネージャーから開口一番に
「ハル、いい加減にしなさい」
いつものお説教が始まる。
「自分の立場がわからないの?」
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