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見えてはいないけれど、義孝はきっと目を輝かせて待っている。
「えっと……」
かといって恋文模写の話をするのはダメな気がする。ここに来る前は教えてあげたいと思っていたけれど、流石に本人を前に「あんたの恋愛、全部知ってるから」なんて言うのは可哀想だ。
「うんっと……おじさんってこととか?」
なにも言えないと思った私は、彼に抱いていた自分のイメージを伝えることにした。
あんなゾクゾクするような恋愛の和歌を書くぐらいだからきっとおっさんだ。うん。
「私がですか? 私はまだ若いですよ。十八です」
「え!? あんた同い年なの?」
ついつい出てしまったタメ口。
私はすぐに空いている方の手で口を抑えるが時既に遅し。
怒られる。
と私は思った。
「あんた? 同い年?」
しかし義孝からよく分かっていないような反応が返ってくる。
「あ、今のは忘れてください。すみません」
助かった。
まさか同い年だなんて思ってなかったから。確かにこの手を見るとそれも納得出来る。白くて細長い指。皺など一つもない。
だけどこの歳であんな歌を書いてたの?
一体なんなのよこいつ!
どんだけ経験豊富なの?
私は告白なんてしたこともされたこともーー
止めよう、また悲しくなってくる。
「あの、もしかして姫……私のことについて他にはご存知ないのですか?」
私の反応から察した義孝はさっきまでと打って変わって悲しそうな声を出す。
「いや、知ってるけれど。ねぇ? 言ってしまうと未来が変わってしまうかもしれないでしょ?」
「むぅ。確かにそれはそうですね」
「ところで義孝! あなたは確か兄弟がいたよね?」
「はい、兄がいます! やはりご存知なのですね!」
「知ってるわよ! 当たり前じゃない!」
なんとか誤魔化し切った私は、自分の顔がピクピクしているのを感じながら、小さく息を吐いた。
藤原義孝。
おっさんのような歌を書くのに若くて、暖かくて優しくて、それでいてくだらないことを気にする。
変な男子だ。
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