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「もう、姫ったらすぐ卑屈におなりになりますね」
雪乃が私の両肩に手を置く。
「忘れることなんて無いに決まってますし、絶対に悲しみますからね! だから家出は駄目です」
「だから家出はしないって」
「信用できないんですよ」
「よく姫にそんな口聞けるわね」
「こんな時だけ威張らないでください」
私達は笑い合う。
雪乃は一応召使いのような役割らしかったけど、私にとっては大事な友達だ。
私には姫なんて、やっぱり似合わないや。
「ねぇ雪乃。ちょっと変なこと質問してもいい?」
「はい。なんでもお聞きします」
「雪乃は恋したことある?」
「ありますよ!」
雪乃は目を輝かせる。
「恋した男性と話をしていると胸がこうぎゅーと締め付けられて、そこに目に見えないようなとても小さな針を刺されているような気がするんですよね。それがなんとも言えない痛みでして!」
いつの時代も女の子は恋バナが好きなんだなー、と雪乃の様子を見ながら思う。
平安時代に於いての新たな気付き。
そしてもう一つ気付いたことがある。
なんとなくそんな気がしていた。
だから雪乃に前までは大嫌いだった恋愛の質問をしたんだけど。
「今の私と一緒じゃん……」
「え? なにか仰られましたか?」
「いや、分かるなーって思っちゃったんだ」
「本当ですか! それでですねーー」
雪乃は嬉しそうに話を続ける。
しかしあまり頭に入って来ない。
そうか。これが恋なんだ……
初めて知った恋の痛み。
自分の胸を押さえてみる。
義孝の声が頭でゆったりと流れる。
もし明日でこの世界にいるのが最後になるのなら。
いつも優しく笑っていて、白くて細くて温かい手をしていて、綺麗な歌を私の為に書いてくれる彼の顔を見てみたい。
そして自分の気持ちを伝えたい。
義孝がいつも私に伝えてくれるようには上手くいかないだろうけど。
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