2.藤原義孝

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ーー 「なんで来ないのよ」 昨日気持ちを伝えようと決意した私は、緊張で夜も眠れずに今日を迎えた。 だけど昼になっても夕方になっても義孝は訪れず、遂には夜になってしまっている。 「ああーもう!」 畳を繰り返し叩く。 一体どうなってんのよ! 今日は来ないってこと? 私をこんな気持ちにさせといて。 大体本当に好きなら毎日ちゃんと来なきゃ駄目でしょ! 「バカー!!!」 畳をより強く叩きながら叫ぶ。 明日雪乃に怒られるかもしれないけど知ったことか! あいつが全部悪いんだから。 「バカ、とは何でしょうか?」 「あんたのことよ! って、え?」 御簾の先から聞こえてきた声に私は驚く。 いつの間にかそこに義孝が来ていた。 「私のことですか。 どういう意味ですか?」 「な、なんでもないわ。 ところでどうしてこんなに遅かったのよ……」 私は少し乱れてしまっている着物を直す。 「満月の綺麗な今日を特別な日にしたかったものですから」 義孝の言うことはよく分からない。 だから私は正直に「分からないわよ」と伝えた。 「ところでさ、今日は義孝に言いたいことがあるの」 「奇遇ですね。私もです」 「私が先に言ってもいい?」 「駄目です。私に先に言わせてください」 義孝は手を握ってきた。 私はその手を握り返す。 やっぱり温かい。 いつもは握られるだけだった。 今日は違う。私も伝えるんだ。 「姫、私は貴女を愛してます」 「知ってるわよ」 「お顔が見たいです」 「……私もよ」 簾がゆっくりと上げられる。 初めて見る義孝の顔は思っていたものとは遠く離れていて笑ってしまう。 「私の顔はそんなに変ですか?」 「ううん。素敵よ」 「姫も素敵です」 義孝の顔が段々と近付いてくる。 私は目を閉じる。 唇が触れ合った。 すぐに顔を離す。 「ねぇ、義孝。私あんたが好き」 「私もです」 私の初恋……なんとか伝えられた。 義孝は私を優しく抱きしめる。 細い腕なのに力強い。 もう一度接吻をする。 何度も何度も繰り返す。 繰り返す度により濃厚になっていく。 そして遂に私は義孝に倒された。 義孝が私の髪をかき上げ、耳をなぞる。 「愛しています、いつまでも」 おかげで最後の愛の言葉がはっきりと聞こえた。
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