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「何を言ってるんだというような顔をしているね。 まぁ数時間も経てば分かることさ」
数時間?
こんなもの数十分で終わらせてやる。
唇を尖らしながら次の和歌を取り出して写し始めた私に、婆ちゃんはまた「似てるねぇ」と呟いた。
「私もあんたの母さんも、あんたと同じような顔で書いてたよ。なんでこんな事をって思いながらね。けどきっとあんたもあそこに行ける筈だから。頑張って書くんだよ」
婆ちゃんは自分の言いたい事を言い切ったようで、満足気に私の部屋から出て行った。
あそこに行ける? どこに行けると言うんだ。遂に呆けが始まったのかな?
そんな風に考えながら私はまた欠伸をする。眠たい。早く終わりたい。
残っている三十枚程の和紙を見つめながら、一枚一分で書いていこうと決めた。
三十分後。
いよいよ私に残された試練はあと一枚となっていた。
なんだ。数時間は要すると言われていた恋文模写も、私の手に掛かればこんなものである。さぁ、あと一枚で私も大人か。
「なんてね」
私は自らにツッコミを入れた。
大人になるって一体なんなんだろう。
私は十八歳。女子高生。
けれど恋愛に於いては彼氏なんて出来たこともないし、恋すらしたことがない。恋愛感情なんて全く分からない悲しい女子高生なんだ、私は。
そんな私がこんな恋愛の和歌を書いたところで何も分からない。分かった気にすらなれない。
「大人ってなんなんだろう」
私はまた独り言を言ってみた。
大人が言う大人の意味が分からない。
成人すれば大人とはよく聞くが、私はまだ十八歳だ。成人式なんてまだ二年も先なんだ。
そうしてしばらく考えてみたけどやはり分からなかった私は、「まぁいっか」と考える事をやめる。
とりあえずこれを書き切って大人になりましたと言えばいいんだろう。
母さんと婆ちゃんにドヤ顔をした後、またいつものように漫画でも読んでやろう。
私は最後の一枚を取り出す。
それは今まで書いてきたものとは少し違っていた。
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