2.藤原義孝

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「う……ん? ここは何処?」 重たい目を開けると赤色が基調の着物がまず視界に入ってくる。 なんだこれ。どうやらこの着物を着ているのは私のようである。 立ち上がろうとするが肩にずっしりと重みを感じ、座るのが精一杯だった。 落ち着いて状況を整理しよう。 私は恋文模写をしていた。 最後の和歌に下の句がなかった。 そしてその和歌の上の句を読んでいるうちに寝てしまって…… 「分かった!」 私は左の掌に固めた右手をポンッと重ねる。 これはきっと罰だ。 大切な伝統行事中に寝てしまった私に対して母さんと婆ちゃんが意地悪をしたに違いない。 しかしそれにしても大掛かりな意地悪である。こんな着物何処に隠してあったのだろう。 それにこの家は? そんな風に考えていると、簾の間から隙間風が入ってくる。 うぅ、少し寒い。 私は顔に流れてきた長い髪を払いながら、寒さを抑えるために腕を組んだ。 ん? 長い髪? 私は自分の頭を触る。 そこからは床に付くような長さの髪が垂れ下がっていた。 決して綺麗な髪とは言えない、バサバサの髪である。 勿論こんなに髪を伸ばした覚えはない。 むしろ私はショートヘアーの自称活発女子だったのだ。 こんなに髪の長い文学少女風の女子などは私とは真逆の存在なんだ。 これはカツラかな? 長い髪を一本抜いてみる。 「痛い……」 頭には確かにチクッとする痛みを感じた。 なんで? なんでなんで!? なんで髪の毛がこんなに伸びてるのよ! 私は長髪似合わないのに! いや、そんなことよりも。 「私は一体どうなっちゃうのよ」 ペタっと畳に寝転ぶ。 もう一度寝たら戻れるかも、と私は目を瞑ってみた。 けれども起きたばかりというのもあり、全く眠気が湧かない。 心を落ち着かせ、頭を空っぽにしようと躍起になると、尿意が湧いてきた。 「や、やばい。トイレ!」 私は部屋から出ようとするが、立つことは出来ないので必死に畳を這う。 なんとか部屋を出ようとすると、足音がパタパタと聞こえてきた。 「姫、どうされましたか!」 若い女の子の声である。覗き込んできた顔はとても可愛らしい。お人形のようだ。
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