2.藤原義孝

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誰だって突然過去に連れてこられたら弱くもなるわよ。 しかも私はもともと弱いし。 意地っ張りなのに泣き虫だし、母さんと言い合いになればいつも負ける。 「弱いのはダメですか?」 こんなこと義孝に聞いてもどうにもならないと分かっていながら、私は聞いてしまった。 「いいえ。そんなことはないですよ。確かに私は強い女性だという貴方の噂を聞き、気になったのでここに来ました。容姿端麗で教養も備わっている、何事にも動じない女性。そんな噂です。ですがーー」 御簾の奥から手を入れてきた。 白い綺麗な手が私の手に重なる。 熱が伝わってきた。 「弱い姫もまた素敵ですよ」 素敵。 そんなこと男の人に言われたの初めて。 手の熱が身体全体に広がり、顔に伝わる。 なぜだか分からないけれどまた涙が溢れ出してきた。 私、ずっと泣いてる。 けど悲しさや不安はほんの少しずつだけれど義孝が吸ってくれてるような気がして…… 「もう、泣かないでくださいよ。私が姫の話を聞きますから」 気付いた頃には未来から来てしまったかもしれないということを話してしまっていた。それは義孝からすればきっと信じ難い話だろうし、もしかしたら退屈な話だったかもしれないけれど、それでも義孝は相槌を入れながらずっと聞いてくれた。 「それは凄い話ですね」 全てを話し終えた私の瞳からは涙が消えていた。 話を聞いてくれた義孝はずっと落ち着いたままで手を重ね続けている。 「しかしそれで姫が私のことを知ってくれているということは私も少しは有名になっているということですね」 義孝の嬉しそうな声が聞こえる。 しかしそれは返事に困る言葉だった。 というのも私は義孝についてあまり知らない。母さんも婆ちゃんも藤原義孝の恋文を模写しなさいと言っていただけで彼について教えてくれたことはなかった。 ただ私の御先祖様であるということを聞かされていただけだ。 勿論興味もなかったのでネットで調べたりもしていない。 「姫は私についてどんなことをご存知なのですか?」 なんでそんな自分の未来に興味津々になれるのよ! 普通は聞くの恐いでしょ! とにかく他に知ってることは無いとは言えない。
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