手切れ金

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送信した後、スマホの電源は落とした。 すべきことは沢山ある。まず両親に連絡し、葬儀会社も決めなくては。 「あ、お袋? いや、落ち着いて聞いてくれ。その、親父は・・・? ああ、代わってほしい。うん・・・」 母にとってはあまりにもショックだろうと、父に代わってもらって伝えれば、絶句したのが分かった。それでもすぐに行くと、震える声が返る。 自分のスマホで葬儀会社を調べ、そこに依頼した。 「なあ、ヨウ。どうして俺に言ってくれなかった?」 勿論、返事はない。いや、弟は気づいていたのだろう。兄である俺が、自分を妬ましく思っていたことを。仲がいい兄弟といえども、この俺の身の内に巣食う劣等感に。 (だからお前は言わなかったのか? それが俺への優しさ、だったのか?) そうして喪服を取りに家に戻れば、妻の姿はなかった。テーブルの上には署名された離婚届。 「ふっ、・・・くっ、・・・あはははっ」 ああ、もう笑うしかない。 本気だったのか。まさか夫を捨てて、その実弟と本気で結ばれる気だったのか。そんなことが本気でできると思っていたなら、なんておめでたい思考回路の持ち主なのか。 だが、もっとめでたいのは、今まで全くそんなことを疑いもしなかった自分だ。 うちへ来るのを避けるようになった弟の真意にも気づかずにいた。 「はっ、あはっ、・・・ちくしょうっ」 テーブルをドンと叩く。その紙がぐしゃっと皺をつけた。 そこへスマホが鳴り響いた。 「あ、親父? ああ、今、空港なんだな。お袋は? ・・・しょうがないよ。あ、うちの? いや、そんなことより、駅についたら後はタクシーで。うん、そう」 通夜も葬儀場で行う予定になっている。会社にはすぐ連絡して事情を伝えた。 喪服を取りに行くついでに、死亡診断書を役所に出して火葬許可証をもらってくると言って、出てきたのだ。 その離婚届を、再度見る。 (耀司もうちに来るのを避けていた。体の関係はなかった筈だ) それでも、信じたかった。 同じ名前の違う女なのだと。
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