手切れ金

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慌ただしく葬儀会館へ到着した両親には、黙っていたが妻とはとっくに離婚したのだと告げた。だからもう無関係なのだと。 そうして弟のスマホに登録されていた友人達に連絡してからは、その電源を落とす。 やがて通夜も葬儀も終わり、失意の両親は弟の遺骨を持って帰っていった。 「もしもし? ドアの鍵を付け替えてもらいたいんですけど。どれくらいで出来ますか? ああ、じゃあ三十分後、お願いします」 疲れきっていたが、鍵屋を呼んで、新しい鍵に付け替える。それから俺は泥のように眠った。 今度の週末は弟の暮らしていた部屋の片づけと、そして妻だった女の荷物を彼女の実家に送る作業で忙殺されることだろう。 ――― ピンポーン チャイムが鳴った。けれども俺は出なかった。 だってそうだろう? 何の会話もなく、一方的に離婚届を置いて出て行った相手に、今更どんな会話をしろと言うのだ? (そんなにもあいつが良かったか?) そりゃそうだろう。勉強漬けの青春を送っていた自分より、弟は要領が良かった。適当な高校、大学に進学し、なのにするりと簡単に、給料も悪くない会社に就職してみせた。 休日も、楽しむことを忘れない奴だった。 そんな弟に、俺だって本当は憧れていた。 妻にしても、楽しい気分にさせてくれる耀司の方がよほど良かったことだろう。 それは、仕方ないことだ。 分かってる。 (分かってるさ。だけど、それでも・・・) あまりにもショックが大きかったからだろう。今になって頬に流れていくものがある。 俺は、みっともなく泣いた。 分かってる。妻が弟に恋した気持ちも。弟が俺を思って何も言わなかった気持ちも。 ずっと俺と耀司は兄弟だったのだから。 そして同時に。 婚姻届を出した相手には、それでも互いへの貞節を誓ってほしかった。
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