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思わず出てしまった大声に、香菜は慌てて唇を引き結んだ。
でも腹がたつことに、男はそのまま香菜のそうあまり豊かではない胸の谷間に顔を埋めるように、ゴソゴソと動き始める。
「――このっ……、いい加減に」
「やっぱり、困ってるよね」
顔が赤くなる香菜の頭の上から降ってくるのは、変わらない男のやわらかい声。
しかしその声音に、どこかからかうような気配を見つけて、
「ちょっと、あなたね……」
香菜はひとこと言ってやろうと、勢いよく顎をあげた。
「――」
とたん、言葉も引っ込んでしまう。
「――」
香菜の前には、香菜と目合わせるようにして、しゃがんでいるバーテンダー。
膝を左右に開いて、そこに肘を引っ掛け頬杖をつき、コンビニの前にたむろする子どもみたいな恰好で、香菜のことを面白そうに見やっている。
赤い髪、ゆるくカーブを描いた目元。
ほころんだ口元。
どこもかしこも完璧で、どこかのモデルみたいな顔立ちだ。
この突然に現れたイケメンバーテンダーに、香菜は思わず、見惚れてしまったのだ。
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