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「……違う、の。ごめん……」
そんな事情は到底、夏樹には言えるはずもなく、香菜は涙をこぼしながら首を振った。
「夏樹のせいじゃないの。ごめん」
すると夏樹は、
「俺のせいじゃないっていうのなら、早くその涙を止めてくれないかな」
思いがけない冷たいことを言う。
香菜が、
「……そんな無茶、言われても」
ひぃっく、としゃっくりをひとつすれば、
「俺、女の子を泣き止ますのなんて、抱いちゃうしか方法を知らないんだよね」
「!」
しゃっくりと一緒に涙も引っ込んだ。
同時に鼻水がズルッと垂れた。
もう、最悪だ。
慌ててハンカチを出してきて、乱暴に顔を拭えば、夏樹は、本気なのか冗談なのか、さっぱりわからない顔をしたまま、
「とにかく借金が原因なら、全部俺に任せて。香菜ちゃんの悪いようにはしないから」
そんな風に言った。
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