143人が本棚に入れています
本棚に追加
夏樹はギュッと香菜のことを抱きしめる。
腕の中に固く閉じ込めて、
「どけ! 女をこっちに寄こせ」
怒鳴る男にも怯まない。
ガンガンと鈍い音がするのは、夏樹が男から殴られ続けているせいか。
すっぽりと閉じ込められている香菜の位置からは何も見えない。
「夏樹いいから。放して、夏樹」
香菜はじたばたともがくが、夏樹の腕の力が緩むことはなかった。
「夏樹お願い。もうヤめて」
こんなヤツら、夏樹ひとりだったら、余裕で対処できたはずだ。
なのに今は、香菜を庇って、殴られるままになっている。
「夏樹、あたしは大丈夫だから」
言っても夏樹は石になってしまったように動かない。
ただ香菜を守る盾になって、ジッとしている。
『なんで!』
香菜は思う。
『夏樹なら、夏樹ひとりなら、簡単にやっつけちゃえるのに』
最初のコメントを投稿しよう!