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4 悪魔の囁き
ダイニングバーから出ても、バーテンダーは香菜の手を離さず、ずっと早足で歩き続け、
「あっ」
香菜がミュールのバランスを崩してから、
「ああ、ごめん」
香菜の存在を思い出したように、ようやく足を止めてくれた。
「どう? 少しは気がまぎれた?」
その上、何もかもを見透かしているみたいに、そんな風に言う。
香菜はなんだか憎らしくなって、
「あなた、エプロンしたままよ」
ささいなことを指摘してやる。
するとバーテンダーは、
「――そうだった」
ちょっと照れくさそうに笑い、手早く外して腕の中に丸めこんだ。
しかしエプロンを外しても、白いシャツネクタイ、ベストにパンツという、バーテンダーのクラシカルな格好は、スラリとした彼によく似合っている。
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