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「わっ」 あたしは思わず間の抜けた声をあげた。 その人はぶつかったわけじゃなく、あたしの前に立ちふさがっていた。 「どうして行かないの?」 その人が突然言った。 見上げると、ほんとに今まで見た事がないぐらいかっこいい人が立っていた。 タクミくんだ。 あたしは何が起きたのかわからなくて、何も言えないで固まっていた。 なんのこと? あたしのこと待ってたの? どうして? 「カラオケ。行かないんでしょ?」 タクミくんが言う。 あたしはわけがわからなかったけどなんとか声を絞り出した。 「え・・・・・・・うん。遠藤くんの誘ってくれたのは・・・・」 そう答えてる間もあたしのことをジッと見るから、顔がどんどん赤くなるのがわかった。 「なんで?あいつ、モテるのに。」 いきなりそういわれて、むっとした。 初めて話すのに、なんなの? モテる人に誘われて行かないわけないと思ったってこと? あたしはキッとタクミくんをにらんだけど、彼は心底不思議そうな顔をしてあたしを見てた。 なんか、調子狂うな・・・・・。 「なんで、あたしに声かけたの?」 待ち伏せしてた感じだったし。それだけは聞いておかなきゃ。 タクミくんは、一歩こちらに近づいてきて、身長差のせいであたしをちょっと見下ろすような姿勢で言った。 「仲良くなりたかったからだよ。・・・・・それに、俺が誘ったんだ。さっきのも。遠藤に頼んでさ」 距離が近くてあたしはまともに見上げて顔を見れなかったけど タクミくんの心地よい低めの声が近くに聞こえてうっとりしてしまい、 内容が入ってくるのが遅れてしまった。 え。今なんて? あたしがぱっと顔をあげると、タクミくんの顔がすぐそこにあった。 「どうかな?」 タクミくんが微笑んでる。切れ長の目を細めて、あたしの反応を見てる。 あたしは体温がどんどん上がっていって今にも爆発しそうだった。 仲良くなりたいって。・・・タクミくんが、あたしと・・・・。 「な・・なんで?」 あたしはやっとのことでそう言った。 だってそうでしょ?話したこともない、こないだ電車で目が合っただけ。 「仲良くなりたいのに理由いるかなあ。興味あるんだよね、花音ちゃんに。」 タクミくんはそう言って、空を見た。 「降ってきそうだね、行こうか」
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