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あたしの腕を引っ張って、駅の方に歩かせる。 えっ一緒に帰るの? あたしは言われるまま並んで駅までの道を歩いた。 背が高いタクミくんはさっさとすごい速さで歩いていってしまって、 あたしは必死に小走りで追いかけた。 なんであたし追いかけてるんだろう。・・・だけど、素敵だと思ってた人に 仲良くなりたいといわれて、今、一緒に歩いてる。 ちょっと気になることはあるけど、これってラッキーなんじゃない? 後ろを振り返ったタクミくんがようやくあたしが小走りなことに気付いて言った。 「俺、歩くの早かったね・・・花音ちゃん女の子なのにごめん」 「あの・・・どうしてあたしの名前・・・」 さっきも呼ばれて不思議だった。遠藤くんにも名前は言ってなかったと思うし。 なのに里奈づてに誘われたのが今考えたら不思議だ。 「友達に、そう呼ばれてたでしょ?」 なるほど。たしかにあの時麻美もいたし、呼ばれたかもしれない。 だけどそれを覚えてくれていたなんて、嬉しい。 あたしがちょっと黙っていると、タクミくんがいきなりくっくっくと笑い出した。 「花音ちゃんだって。俺の名前・・・・知ってるくせに」 そう言ってニヤニヤしながらあたしを見る。 あたしはカッと顔が熱くなるのを感じた。 電車で会った日、やっぱり話聞かれてたんだ。 恥ずかしい!  でも、ということは・・・。 やっぱり、あたしに興味をもってくれたというよりは、 自分のことを好きかもしれないって思って近づいてきたってことだ。 並んで、速足で歩きながらも横目で彼を見る。 「タクミくん・・・でしょ。そう、知ってる。あたしも、呼ばれてるの聞いたもん。 こないだ電車で会ったとき、その・・・・その前から話聞いてたの?」 あたしは勇気を出して聞いてみた。 「少しだけね。俺のこと、褒めてくれてたのは聞いたよ。」 そう言ってタクミくんはこっちを見て二ヤっと笑う。 わぁっ!じゃあ聞かれたくない部分は大体聞かれてたんだ・・・ 近くにいたのに、どうして気付かなかったんだろう。 あたしは恥ずかしくて何も言えなかった。 突然、タクミくんがパッと真顔になって、 あたしの腕を掴んで走りだした。
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