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びっくりしてふりほどこうとしたけど、そんなのお構いなしでギュッと掴まれたまま すぐ近くにあった文房具屋に連れていかれた。 今日は定休日でシャッターがおりているけど、入口の横に少しスペースがあって、 階段が続いている。 その中に入ったとたん、 外が白く光り、頭の奥に響くようなすごい轟音が鳴り響いた。 そしてそれと同時にザーっと雨が降り出した。 「雷だ。けっこう近くに落ちたね」 あたしは、突然の轟音に驚いて思わず床にうずくまっていた。 今のが雷? 近くに落ちた音なんて今まで聞いたことがなかった。 こんな凄まじいものだなんて。 「大丈夫?」 そう言ってタクミくんはあたしを心配そうに覗き込んだ。 「う、うん・・・」 差し伸べられた手をつかんで、なんとか起き上がった。 「近かったけど、どこだったのかここからじゃわからないな」 タクミくんは外を見ながら静かに言った。 まださっきの轟音が頭の奥に残っているような変な感じがした。 さっきタクミくんが走り出した時、何があったのだろう。 「どうしてわかったの?」 あたしが聞くと、タクミくんはきゅっと唇をかんだ。 「なにが?」 と、ちょっとそっけない感じで答える。 「なにがって・・・どうして雷が落ちるってわかったの?」 タクミくんは溜息をついて、あたしのほうを見た。 「俺ね、ちょっと耳がいいんだ。 だから・・・雷の音が聞こえたんだよ」 「耳が・・・。そうなんだ。それってどういう」 とあたしが続けて聞こうとしたら、目の前に黒い傘がぱっと開いた。 差し出すタクミくんの表情はなんとも読めない。 「もう雷大丈夫なんじゃないかな? 行こうか。傘、ないでしょ?」 もしかしたら、折りたたみ傘持ってるかもしれないじゃない。 と言おうとしたけど、持ってないのは事実だし、 あたしは大人しくそのまま広げられた黒い傘の下に、おさまった。 そこから駅までは、傘にあたる雨の音もうるさかったし、 2人の間に会話はなかったけど、ひとつの傘の中で思ったよりも距離が近くて、 あたしはそれどころじゃなかった。 駅について、改札の前でタクミくんが立ち止まってあたしのほうを向いた。 「俺の家、こっちの方面なんだ。」 と、あたしが乗るほうと反対側のホームに上がる階段を指さした。 「花音ちゃん逆でしょ?」
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