1

8/12
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
「あ、うん・・・あれ、じゃあこの間はどこか行くところだったの?」 あたしが聞くと、タクミくんはなぜかニヤっとして言った。 「そうだよ。この前電車で会った時は、家に帰るとこじゃなかったからね。」 じゃあこの前会ったのは本当に偶然だったんだ。 階段の近くまで来たので、あたしたちは立ち止まった。 「花音ちゃん、連絡先教えてよ。」 と言いながらタクミくんが自分のズボンのポケットを叩く。 「って・・俺今日スマホ忘れたんだった・・。俺のID言うから登録してくれる?」 「う、うん。わかった」 男の子と連絡先の交換なんて久しぶりでドキドキしながらあたしは自分のスマホを出す。 「あ、名前・・・」 あたしが聞くとタクミくんは微笑んで、あたしのスマホをさっと取る。 あたしが驚いてる隙にもうスマホはあたしの手元に戻ってきた。 「ごめんね勝手に。じゃあ、ちゃんとここに連絡してね。」 と言いながらタクミくんはもう階段を上り始めていた。 あたしが返事もせずにぽかんと見ていたからか タクミくんはもう一度振り返ってあたしのほうをじっと見ながら言った。 「花音ちゃん。連絡、待ってるからね。」 あたしはまた頬が熱くなるのを感じながら 「うん・・・わかった。」 となんとか返事をして、手を振った。 タクミくんは満足そうにまたニヤっと笑って、そのままホームに上がっていってしまった。 なんだったんだろう・・・・。 ちょっとの間その場で立ち尽くしていたことに気付いて、 あたしは自分の家に帰る方面のホームの階段をのぼった。 電車がくるまでまだ少し時間がありそうだったのであいているベンチに座る。 あたしは学校が終わってから今までのことを思い返した。 カラオケのこと、あたしを待っていたタクミくん。 そしてあの雷。 すごい音だった。 初めてあんな近くに雷が落ちる音を聞いた。 学校のみんなは大丈夫だったのかな。 それに・・・耳がいいって、どういうことなんだろう? 雷は落ちる前に音がするっていうし、それが聞こえたってことだよね。 あの時あたしは麻美とタクミくんの話をしてたことがバレてないかで 頭がいっぱいだったから、何も気づかなかった。 あの時の、腕を掴まれたときの感触を思い出して、 あたしはまた胸がきゅっとなった。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!