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・・・いくらなんでも、昇降口から校舎の中の教室の話声が聞こえるわけがない。 そんなわけないのはわかってるけど・・・。 雷の時も、あたしが耳のことを聞こうとしたら露骨に嫌そうにしてた。 何を聞かれたくなかったんだろう。 疑問が湧いてきて頭の中をグルグルまわりはじめた。 電車があたしの降りる駅に停車した。 あたしはぼんやりしたままホームに降りて、改札へ向かう。 ロータリーにお母さんの運転する車が見えて、少しほっとした。 車に乗るとお母さんが満面の笑みで待っていた。 「おかえり!すごい降ってきちゃったわよね。あらっ濡れずに帰ってこれたのね。 急にザーって降り出すからおかあさんびっくりしちゃったわ」 そう言いながら車を発進させる。 「天気予報雨って言ってなかったわよねえ。ほんとこんなに降るならわかりそうなものよね。」 家に帰るまでの間、お母さんはずっと天気予報についてグチグチ言っていたから、 あたしは適当に相槌をうっていた。 ほんと、拓海くんは準備がいいな。傘持ってたもんなぁ。 またそんなことを考えていると、鞄のポケットでスマホが震えた。 あたしは運転するお母さんの横顔をちらっと見てからスマホを取り出す。 拓海くんからだ。 「連絡ありがとう。 もう家着いた?」 文章だと、なんだか変な感じ。 目の前で話すと緊張するけど、 こうして文字だと顔が見えないから反応を見られなくて助かる。 「もうすぐ。駅までお母さんが迎えに来てくれたから、車で帰宅中」 さっと返信して、窓の外を見る。 雨ももうだいぶ小ぶりになってきたけど、 相変わらず空はどんより厚い雲がかかっている。 親子でカッパを着て、自転車で走っている親子。 コンビニのビニール傘をさして歩いている学生。 びしょ濡れになりながら走っている小学生。 小さい子供の親子連れはみんなカッパを着たり傘をさしたりしている。 「世の中のおかあさんて、用意いいんだね・・・」 なんとなくつぶやいた。 「あら、そりゃそうでしょう、みんな大事な子供が風邪ひいたりしないように、 いろんな事考えて予想してるのよ。」 お母さんはそう言いながら信号待ちで停まる。 「ほら今だって、大事な大事な子供が濡れないように迎えにきたでしょ?」 「ほんとだ」 あたしとお母さんは2人でクスクスと笑った。
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