1

11/12
前へ
/33ページ
次へ
家について部屋着に着替え、お母さんが温かい紅茶をいれてくれてたから、 居間のある1階に降りる。 紅茶を飲みながら、テーブルの横の写真たてを眺めていると、またスマホが鳴った。 「傘なかったからよかったね。それじゃあ、また明日ね!」 え・・・それだけ? もう返信するなってこと? あたしはガッカリして、スマホをテーブルの横に押しやった。 「なあに?そんな顔して。嫌なメールでもきたの?」 クッキーを持ってきたお母さんがあたしの顔をみて言った。 そんなに顔に出てたかな・・・ 「ううん。別にそういうわけじゃないよ。」 あたしはクッキーに手を伸ばす。お母さんの作るクッキーは絶品だ。 今日のクッキーは生地にレモンピールが練りこまれてる。 バイトもダメで、門限も早くて不満に思うこともあるけど、こうやって自分に 手をかけてもらえてるのは幸せなことなんだろうな。 普段は思わないけど、こんな日はそう感じる。 「お父さん、傘持って行ったかしら・・・」 お母さんが窓の外を見てそわそわと立ち上がって お父さんにメールを打ち始めた。 お父さんは朝も早くて夜も遅いから、あたしは土日ぐらいしか顔を合わせることがない。 その土日だって、もう高校生の娘とどこか行くわけでもなく、 夕飯を一緒に食べるぐらいだ。 それでもあたしはお父さんがすごく好きで、 いつか結婚するならお父さんみたいな人がいい。 お母さんのことを大事にしてて、仕事が普段忙しくて 夫婦の時間がなかなか取れないからか、日曜の朝はお母さんより早くおきて、 お母さんのためにコーヒーを淹れて枕元に運んでいってる。 お母さんも、そんなお父さんに色々世話を焼くのが楽しそうだし。 2人を見てると時々くすぐったいような気持ちになるけど、 あたしも将来はこんな夫婦になりたいって思う。 ・・・もっともまだ結婚なんて、想像もつかない先の話だけど。 彼氏だっていないのに・・・・・ ここで拓海くんの顔を思い出してしまった。 雷から助けてくれた拓海くんかっこよかったな。 拓海くんは話す時、じっとあたしの目を見るから、恥ずかしくて真っすぐ 見返すことができない。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加