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「さっき遠藤くんがあたしに話してる声が聞こえたって言ってたよね?
かなり小さい声だったけど‥‥。隣でヒソヒソするような小声。あれが聞こえたってこと?
前に拓海くんがいってた、「耳が良い」ってそういうことなの?」
拓海くんは真面目な表情であたしの目をじっと見ている。
「そう。そうだね」
静かな声でそう言うと拓海くんは急にあたしのお弁当箱の蓋をさっと取ってあたしの前に差し出した。
「ほら、そろそろ片付け始めないと昼休み終わるよ」
まただ。
ちょっと踏み込んだ事を聞くと、拓海くんは心を閉ざしてしまう。
せっかく楽しく話せてたのに‥‥あたしが、余計なこと聞いたばっかりに変な空気になってしまった。
だけどあたしそんなに失礼な事聞いてるかな。
あたしはお弁当箱の蓋を受け取って言われたとおりに片付け始めたけど手が震えてしまって、うまく出来ない。
だめだ、ちょっと‥泣きそうかも。
「ごめんね‥‥花音ちゃん。」
拓海くんがぽつりと呟くように言った。
拓海くんはあたしのお弁当箱を手に取って、ナフキンで器用に包んでからあたしの方に押しやった。
「どう伝えたらいいのか分からなくて。
誰かとこんな風になるのも初めてだから。
そんな風に悲しい顔させるつもりはなかったんだ」
静かな声で拓海くんは言った。
あたしは前に置かれたお弁当箱を見ることしかできなかった。
顔があげられない。
ちょっと拒否されただけでこんなに悲しくなるなんて。
ただ質問に答えてくれない事があたしの心をこんなに乱すなんて‥‥。
こんな経験、あたしは今までした事がない。
だから、どうしたらいいのかも分からない。
顔をあげると、拓海くんが本当に心配そうな表情であたしを見つめていた。
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