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知らない道を歩くのは怖い。
だが歩くことをやめるのは許されていないみたいで、先ほどから足が止まることはない。
夜明け前のように、露に濡れた草原をひとり歩いている。
曇り空のくせに明るく白い上空、地上は見渡す限りの緑が地平線まで続き、他にはなにも見えない。
歩くうち、草の背丈はだんだんと伸びてゆき、ついには智徳の胸の高さまでになった。
相変わらず道筋などないが、自分の意思とは関係なく行き先は決まっているようで、歩みに迷いはない。草をかき分けて進むと、全身があっというまにぐっしょりと濡れそぼった。
特にズボンは水に浸かったような濡れ方で、足元を取られるほどの重みのはずなのに、近年感じていたような痛みや軋みはない。むしろ驚くほど足取りは軽かった。
「えっ?」
違和感を感じる身体にとうとう立ち止まる。ズボンのすそをめくった智徳は驚いた。
露に濡れた皮膚に変化があった。皺だらけで筋張っていたはずの足首が、みずみずしくハリを帯びてきている。それは、ぞわりとした感触と共に全身へ広がった。
細胞がひとつひとつ生まれ変わるかのように、ふっくらとしてくる実感がある。頬にそっと触れると、跳ね返るような弾力があった。
「あの頃みたいだ……」
彼に触れられているこの肌がどんなものかと興味があって、己の肌を不思議な気持ちで触ったことがあったから覚えている。自分もそれなりに若かった、彼に出会った頃の肌みたいだった。
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